『安倍総理は反知性主義』、打ち勝つために組合活動に期待!=シンポジウム「これからの日本の行方」

掲載日:2013.05.09

自治労道本部は5月7日、札幌市・自治労会館で、シンポジウム「これからの日本の行方」を開き、会場には一般市民も含め250人が参加した。

 

司会者から、「政権交代後のさまざまな疑問を、今後の日本を考えるにあたり疑問点をこのシンポジウムで見つけていただいて、少しでも考えあえるきっかけの場にしてほしい」と呼びかけた。

 峰崎直樹学監(元参議院議員)は、急な呼びかけにかかわらず集まってもらい感謝すると述べ、シンポジウムがはじまった。

 

 

 

 

はじめに、「今の政治状況について」山口二郎・北海道大学院教授が、「民主党を応援していた人は不必要に自虐的になって失望しているという印象だ。私たちの敵は右派政治・自民党。その敵とたたかう前に内なる敵は失望や絶望。政権交代は歴史に残るもの、単なる失敗として歴史に残るものと考えなければ前に進まない。敵とたたかう前に負けてしまっている」と指摘した。

また、「政権交代で民主党は重要な政策転換をした。二大政党の一翼を担うという誇りを失ってはいけない。アベノミクスの矛盾を明らかにして、批判し続けることが重要だ。民主党を罰するという民意はあるが、バランスを欠いた政治状況は長続きしない。常識に応える中央センター(民主党)となるためにはバランスよりも中身が大事だ。万能薬もバラ色の夢もない。議論を省略した解決策はない。次の参院選は歴史に残るたたかいになる。右派や極右政党が存在している。『石原の軍事国家をつくれ』は正気とは思えない発言。これだけ改憲にむかうのは危険な状況。政権交代は10年ぐらいのスパンで起こりうること。今は正念場。いかにして前に進むか、民主党がもう一回政権にチャレンジすることでまともになる。あきらめずに取り組んでいかなければならない」と強調した。

 

つづいて、元外務省情報分析官・文筆家の佐藤優さんがアベノミクスについて「安倍総理は反知性主義的なことをやっている。他人の気持ちになることが苦手。なのに対ロシア交渉はなぜうまくいっているのか。外務省の人事異動の成果だ。プーチンと直接会話ができるパイプを作れば北方問題は1年で思わぬ動きがでる」と述べた。

また、「対ロシア交渉は外交の技術屋としてうまくいっているが、プーチンも安倍も帝国主義者的力の外交をやっているから波長が合う。日本の外交、新自由主義と緩やかなファシズムが混在している。例えば企業の内部留保を減らして賃金あげるというのは一見まともに見えるが、ファシズム主張そのもの。国家の権力を背景にした形で雇用や賃金に介入してきている。ファシズムの強さは理論がないこと」と、述べたうえで、「安倍総理は反知性主義に強さがある。それに打ち勝つためには、労組の強化が必要。労組は中間団体。仲間を助けあう団体、仲間との強化が必要。裏返すと政府からすれば労組は面倒。このままでは、そうとう大変になる。バラバラになることは国民にとっても良くないし周辺国家にも迷惑かける。組合活動には期待している」と強調した。

 

 その後、峰崎直樹学監がコーディネータとなり、「これからの日本の行方」をテーマに、パネルディスカッションが行われた。、パネリストに佐藤優さん、山口二郎さん、鎌倉孝夫さん(経済学者)、山崎耕一郎さん(社会運動家)。

 

 

 

 

 

はじめに、アベノミクスについて鎌倉さんと山崎さんが意見を述べた。

鎌倉さんは、「特に現実の効果が表れているのは通貨・金融政策。直後から日銀券をバラまいている。白川日銀元総裁の政策に安倍が口先で言ったたけで株価が上昇し円高になった。口で言っただけで経済が動くのは、反知性主義そのもので軽薄だ。現在の経済が軽薄になっている。言葉だけで動く経済は投機する体質になっている」と述べた。また、「白川さんから黒田総裁へ変わったが政策は素人。金通貨が大量に出回ると通用力が低下し物価が上がる。通貨の量が増えれば、需要が増えるかのように錯覚している。国家が賃上げ要求しているが、春闘全体で賃金支払総額はマイナス、公務員は完全にマイナスで賃上げにはつながっていかない」と指摘した。

さらに、「現在、銀行には過剰資金が堆積している。預貸率は70割をきった。地方の信金は3割しか貸し出しに回していない。それだけ金が余っているのにさらにお金をつぎ込むといっている。日銀の資金供給量は2012年に138兆円、GDPは470兆円。それを2014年には270兆円に増やすといっている。銀行所有の証券・国債を日銀が買って日銀権をつぎ込む。しかし、金融機関には過剰資金がたくさんある。その金はどこに行くのか。金融量的緩和政策で日本が買った国債を日銀が買い続けている。なぜ景気が上昇しなかったのか。雇用は正規が減り、非正規が増え、賃金は減り続けている。お金をバラまく政策を続けながら、なぜ雇用や賃金に回らないか。お金は株や証券として、ほとんどが外国の投資家が買っている。株が上がってなぜ民衆が喜ぶのか」と批判しうえで、「不動産価格が上昇し、マンションの価格上がっている。なぜ民衆が喜ぶのか。1930年代の大不況時に、景気対策で一定の景気回復あったが、決定的に現在と違うのは多国籍資本の競争があること。発展途上国も参加しそれが主流になっている。競争に勝つには、徹底的にコスト削減が必要で発展途上国並みの賃金引下げが必要になってくる。もう一つは産業の独占。株価主義で投資ファンドが主役を占めている。金融資本が肥大化している。国際的舞台で動いている。どんどん投機拡大。株や証券の売買で景気は回復しない。日本でアベノミクスを利用している。そうなればなるほど経済は干上がる。それをどう変換するか、そこにメスを入れないと経済政策をとれない」と問題提起した。

 

山崎さんは、労働組合や労働政党を含めたこれまでの歴史について「この20年の運動の中で良かったのは、国鉄分割民営化の不採用事件に対する裁判闘争。完全に勝ってはいないが、労働者が一部満足の判決だった。国労もそうだが、裁判闘争で与党の自民党以外が国労支援には一致していたから。最後は公明党も好意的態度で対応した。国労は、よその政党に対してよい態度で接した。国労にはいろいろな思想を持つ人がいたが、その運動にも国労が協力していた。だから支援された。国労の主流は社会党・総評の流れだが、国労の運動している人は意見の違う人も活動を保障して共闘できていたから、いろいろな党派も裁判闘争も真面目に応援してくれた。こういうことを政党運動として実現できないかと考えている」と述べた上で、「革新政党といわれる勢力は、お互いにいがみ合っている。若い人に政党運動をしないかと問うと、どこにも属さないという人も多い。自分の味方をするのではなく、たくさんの人が同じ方向にむかうにはどうしたらいいか考えるべきだが、日本人はあまり得意ではない。異論を含めた政治ができない。みんな黙っている感じだが、異論のある人も含めてまとめられる政党・政権でなければならない」と呼びかけた。

 

◆これまでの民主党をはじめ、政治・政党のあり方について

鎌倉さんは、「民衆の意識問題、民主党に期待したが、民主党が当初の公約が実現できない。だから小泉路線に戻ってしまった。それを明確にとらえないとなければならない。民衆意識をどう変えられるのか、地道な「命」が大切だという運動をつづけけるほかない」と述べた。

 

山口さんは、「小泉路線に戻ったとは思っていない。挫折の理由は参院選に負けて法案が通らなかったから、子ども手当も後退した。政治を変えることは革命ではない。100言って50できれば上々だ。民主党はマニフェスト100のうち60は実現した。マイナスイメージはあるが、ねじれでなければもっとやれることはあった。原発についても即時ゼロからみれば弱いかもしれないが、2030年代にはゼロという設定は大変な成果だった。もう少し辛抱するように見る姿勢が必要だった。政権交代したが何も変わらなかったでは、次につながらない」と強調した。

 

 

 

 

峰崎さんは、「自民党は安倍・福田・麻生路線の社会保障・消費税増税姿勢を理解せずに批判する方がいる。民主党はどんな社会をめざすのか、マニュフェストは理念が必要。どんな理念を持っているのかを見ることが必要だ」と述べた。

 ◆日本はどうあるべきなのか、これからの日本の将来の姿について

 鎌倉さんは「安倍総理は帝国主義に戻そうとしている。しかし、アメリカとの関係、アメリカの同盟関係からは脱却はできない。どう帝国主義の本質を発揮できるか。中国との激しい対立が出ているうちは難しい問題ではないか」と述べた。

 

 佐藤さんは「帝国主義は日本の国で進めようと思う人はいない。ナチス運動反対する流れと同じ。脱原発の流れも否定はしていない。しかし、リトアニアやサウジアラビア、ベトナムにも原発を売ろうと、武器輸出三原則の緩和をもくろんでいる。潜水艦をつくれるのは日本とロシアしかない。帝国主義国間との戦争できないソフトな帝国主義をめざしているのではないか」と述べた。

 

 山崎さんは「好戦的な言動をするか融和的な言動化か、それぞれの条件で考えが違ってくる。在特会(在日特権を許さない市民の会)はメールで連絡を取り合って、在日朝鮮・韓国人の住むまちに行って『よい朝鮮人も悪い朝鮮人も殺せ』とプラカードを持って抗議する。相手が手を出したら乱闘して警察が止めるという筋書きになっている。お互いにあたまにくることを繰り返して好戦的な形がよみがえらせている。侵略戦争の歴史が今の「維新」の基盤になっている。経済的に日本が有利になっていないのに、好戦的な言動する人が増えている。それを変えるのが、政治の役割だ」と述べた

 佐藤さんは、「在特会は、反原発・脱原発・沖縄にもむかっている。しかし、実際の動員数は300人程度しかいない。人がいないところでいるように見せているだけ。街宣車は1台だけ。旗を立てるなどして、自分たちの力を10倍くらいに見せる。これは人種主義ではない。人種主義はナショナリズムを変える。在特会がすごい力をもっているとする報道は危険だ。しかし、たいしたことはない」と述べた。

 その後、参加者から質問や意見が出され、それぞれパネリストが意見を述べた。 

特に、憲法問題に関して次のように話した。

山口さんは「今の憲法改正についてのまちがいは、変えることが目的となっている。何のために憲法改正か議論せずにいっている。時間が経ったからということ以外、明確な話は出ていない。憲法は国の基本ルール。変えてはいけない。多数決というのはたまにまちがう。憲法は民意が道を誤った場合にも防げるようにできている。96条改正は筋違い。戦後の民主主義は大きな物語の上にできている。ただ戦争に負けたことを屈辱にうけていくことはさびしい。中身の議論した上で合意をつくったうえで改正を語るべき」と述べた。

鎌倉さんは、「憲法改正は現実と合わないとの主張だが、資本の理念、現実に即した理念ができないから古いほうに戻ってしまう。今の憲法は理念があると思う。これに代わる理念はない。安倍政権は公助・共助を変えるとした。そうなると目的も変わってしまう。企業に対しても公助をなぜ残すのか。TPPはアメリカの多国籍資本と一体となった市場拡大。新自由主義路線。方向転換されてしまった」と述べた。

 

 最後に、峰崎さんが、「マルクス経済学、ソ連が崩壊した段階でその延長線上の考え方として受け入れられていない。そのあと出てきたのが、新自由主義国家。これからの日本経済思想史を議論する場があってもいいのでは。中間団体である労働組合が重要で、どう強化していくか考えるべきだ。そこにキーポイントがある。参院選が重要だ」と述べ締めくくった。